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トップページ > 地域情報紙 > トップインタビュー(vol.129)

Face to Face Talk【今月のインタビュー】



  森の通訳者

田貫湖ふれあい自然塾 チーフインタープリター  小野 比呂志    



 ダイヤモンド富士を拝めるスポットとしても知られる田貫湖周辺は、豊かな自然とゆったりとした風情が残る、富士・富士宮市民にとっての憩いの場所。湖の最も奥まったエリアに進むと、景色と調和した木造の建物が現れる。ここ、田貫湖ふれあい自然塾でチーフインタープリターとして活躍しているのが、小野比呂志(おのひろし)さんだ。インタープリターとは本来、「通訳」のことだが、環境教育の世界では「自然と人との仲介役となり自然解説を行う者」を意味する。旅行先で偶然出会った自然ガイドの仕事に感銘を受け、自ら学び、この世界に飛び込んだ小野さんが自然の専門家であることは言うまでもないが、自然の大切さを伝え広めていく活動は、それだけでは務まらない。インタビューの中で印象的だった、「人は自然なしでは生きていけない。でもそれ以前に、人は人なしでは生きていけない」という言葉に、小野さんの価値観が凝縮されているように感じた。



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田貫湖ふれあい自然塾は誰でも無料で利用できる施設なんですね。

 「自然を活かしたさまざまな体験を通じて環境保全への関心を高め、行動するための機会を提供することを目的とした、環境省所管の施設です。そう表現すると堅苦しいですが、簡単に言うと、遊んで学べる自然学校です。自然と触れ合う施設としては、国立公園などに設置されているビジターセンターがありますが、展示や解説が紋切り型で一方通行になりがちです。当館では子どもからお年寄りまで一緒に楽しめるというコンセプトのもと、典型的な例としては、ベーゴマや竹トンボなどの昔遊びのコーナーも設置しています。自然塾なのになぜ昔のおもちゃがあるのかと不思議がられますが、最大の目的は、人と人の交流を促すことです。知らない子ども同士が遊ぶ機会になりますし、お父さんやおじいちゃんが得意げにコマの回し方を子どもに教えたり、時にはおじいちゃん同士のベーゴマ対決が始まったりもします。『ほう、なかなかやりますな』みたいな(笑)。なにげない景色のようですが、そこには我々が大切にしていることが詰まっています。いくら自然は偉大だ、大切にしようと訴えたところで、その人を支える人間関係が整っていなければ、人は自然の大切さに目を向ける気にはなれないものです。環境教育とはつまり、人間教育です。環境と聞くと自然をイメージする人が多いと思いますが、環境=自分の身の周りという意味では、人も環境の内なんです。人と自然が共生するより良い社会にしていくためには、周りの人や物、その先にある自然とどういう関係性を築いていくかが総体的に求められます。」



小野さんが自然に関心を持つようになったきっかけは?

 「父がアウトドア好きで、趣味の釣りや家庭菜園を家族みんなで楽しんでいたので、子どもの頃から自然に親しむ機会は多かったですね。でも当時からこの仕事を目指していたわけではなく、大学は文系の歴史学科でしたし、学生時代はサッカーに明け暮れていました。直接のきっかけは食品メーカーに就職して働いていた25歳の頃、会社の先輩と旅行で訪れた沖縄の西表島(いりおもてじま)での自然体験ツアーでした。旅行雑誌に載っていたプロの自然ガイドに依頼して、観光客がほとんど訪れない滝や離島の奥地を巡ったんですが、そこに生きる動植物について現地で解説してもらう体験がとにかく楽しくて、こんなに面白い世界があったのかと、衝撃を受けました。そして同じくらい衝撃的だったのが、自然ガイドという存在が職業として成立していることでした。当時はハヤシライスなどの新商品開発やPRを担当していましたが、お客さんと直接対話しながら、初体験の感動や発見を現地で提供することができる自然ガイドという仕事に、大きな価値と憧れを感じました。不思議なことにそれ以後、会社の寮から職場へと向かう道に咲いている花や自然の変化に気づくようになったんです。当然それ以前にも花は咲いていたはずですが、ただ視界に入っているだけで、見えてはいなかったんですね。沖縄での体験が自然に対する僕のまなざしを大きく変えてくれました。」



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人生の転機となった沖縄・西表島での現地ツアーでシーカヤックを漕ぐ小野さん。



そこから自然ガイドへの道を進むことになるわけですね。具体的にはどのような行動から始めたのですか?

 「沖縄旅行の翌年に、3年間勤めた会社を退職しました。とはいえ、すぐに自然ガイドになれるわけではありません。自分がどんな道を進みたいのか、どんな可能性があるのかを見極めるために、アルバイトをしながら1年間は各地の自然学校や環境団体、市民ボランティアの活動現場に顔を出しながら過ごしました。自然に関する仕事といっても、自然保護官、野生生物調査員、農林畜産業者、造園業者、登山家、アウトドアショップの店員まで、分野は多岐にわたります。その中で、やはり自分は自然の素晴らしさを人々に伝える仕事がしたいと思い、あらためて専門学校で必要な知識を学んだ上で、現在の所属先であるホールアース自然学校の門を叩きました。ホールアースは全国各地で自然学校の運営を手がける草分け的な存在で、田貫湖ふれあい自然塾もそのひとつです。人と自然と地域が共生する社会を目指すという理念に感銘を受けたのはもちろんのこと、スタッフのユニークさも際立っていて、こんな面白い人たちとぜひ一緒に働きたいと思ったのが、志望動機の大きなポイントでした。でも僕はもともと人前に出て話すことが得意ではなかったんです、こう見えて(笑)。自然ガイドとしてデビューした当初は極度の緊張で、ガイドを始める前からガチガチでした。そんな中で救われたのがお客さんからの反応で、僕の解説を聞いて『良かったよ』『楽しかったよ』と喜んでもらえたことで、やりがいと自信が積み重なっていきました。」



自然学校ではスタッフのことを「インタープリター」と呼ぶそうですね。

 「我々が重視している方針のひとつに、実体験主義という考え方があります。百聞は一見に如かずという言葉がありますが、さらに自ら体験して発見することで、本物の知識や感動が身につきます。それを実現するために、ここでは我々スタッフが自然と人との間に積極的に介在していくインタープリター、つまり『通訳者』という立ち位置で業務に当たっています。多くの人が自然に親しめるための環境づくりやサービスの提供に加えて、田貫湖周辺の生態系を定期的に観測する取り組みや、有害な外来生物の駆除などにも参画しています。スタッフ自らがフィールドワークに関わることで、その成果を館内の展示物に反映させることができますし、来館者に解説する上での説得力も増します。また子どもたちの視点に寄り添う身近な存在であることも重要です。何度も来館している子どもたちやそのご家族の中には、自然よりもスタッフに会いに来てくれているというケースが多いんですが、僕はそれでいいと思うんです。いきなり自然界の知識をあれこれと詰め込まれても、頭には入りませんし、楽しくもありません。そこに人が介在して、まずは我々スタッフへの信頼感を抱いてもらったその先に、子どもたちの自然に対する親近感を育むことができると考えています。」



自然の言葉を
人間の言葉に置き換え、
伝えるという仕事
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子どもには自然体験をさせたいと思う反面、親の方が生き物や野外活動に苦手意識を持っているというケースもあるのでは?

 「幼い頃から自然に慣れ親しんで感性を磨く機会を与えることは素晴らしいのですが、その一方で、『子どもには自然と触れ合ってほしいけど、私は虫なんか触れない!』という大人が多いのも事実です。我々としてはむしろお父さんお母さんにこそ、命の大切さや自然に親しむことの意味を感じ取ってほしいと思っていて、大人への啓発活動は今後も意識していくつもりです。というのも、週末にどこへ出かけてどんな体験をしても、子どもの価値観を作る基礎となるのは、その大半が家庭です。親の感覚が子どもに寄り添っていなければ、せっかく芽生えた興味や意欲も育てることができません。自然に関する職業体験を念頭に置いた小学生向けのプログラムも開催していますが、彼らが将来的に職業を選択する際の鍵になるのは、それまでにどれだけ多くの世界に触れてきたかということです。それから、仲間を作ることも大切です。同年代の友達やライバルでもいいですし、ものすごく年上の師匠と呼べるような人に教えを乞うのもいいと思います。僕にも7歳と4歳の子どもがいるのでよく分かりますが、子育てには練習がなく、毎日がぶっつけ本番です。保護者はそれぞれに不安や迷いを抱えていると思いますが、まずは行動してみること、人とのつながりや体験を通じて世界を広げていくことで、子どもの『好き』をどんどん伸ばしてあげてほしいです。」



これからの目標や新たに実現させたいことは?

 「そんなに大それた野望はないですよ。昔から長期的な目標を立ててもなぜか全然達成できないタイプですし(笑)。可能な限りこの施設にいて、『田貫湖に行けばいつでも会える面白いおじさん』であり続けたいと思っています。この仕事に就いて15年、それなりの経験を積んだことで、組織内での立場や求められる職務も変わってきました。自然塾での業務に加えて講演や人材育成指導など、いろんな仕事が同時進行で動く毎日ですが、基本的には自分の足元を見て、しっかりと固めることを第一に考えています。まずは家族ですね。休みの日などは家族で過ごす時間を最優先に考えますし、家族のあり方が僕の社会人としての能力の発揮にも大きく影響するので、そこは何よりも大事にしています。その先に仕事や仲間、地域のつながりなどがあって、それぞれの場で自分に何が求められているかを考えながら、ひとつひとつ丁寧に向き合っていくことで、おのずから道は開けてくるのかなと感じています。心しなやかに、自然に逆らわず、シンプルに日々を生きていく。それだけですね。」


    



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小野 比呂志

田貫湖ふれあい自然塾
チーフインタープリター

1973(昭和48)年1月21日生まれ (44歳)
埼玉県さいたま市(旧・浦和市)出身
富士宮市在住

おの・ひろし/慶応義塾大学文学部歴史学科を卒業後、食品メーカー大手の江崎グリコ株式会社に入社し、商品開発に従事。沖縄・西表島への旅行で自然ガイドの仕事に出会い、一念発起し、26歳で同社を退職。東京環境工科専門学校野生生物調査科へ進み、2年間にわたり野生生物の生態を学ぶ。卒業後の2002年よりホールアース自然学校(富士宮市下柚野)にて勤務。運営支援を行う田貫湖ふれあい自然塾に配属となり、チーフインタープリターとして現在に至る。その間、2005年に愛知県で開催された国際博覧会『愛・地球博』では出展ブースディレクターを経験。また、特定非営利活動法人ホールアース研究所の理事を務め、人材育成や環境教育の講師として各地に派遣されるなど、その活躍は多岐にわたる。

【取材・撮影協力】 ホールアース自然学校


    



田貫湖ふれあい自然塾

富士宮市左折633-14
TEL:0544-54-5410
入館無料 駐車場82台(無料)
開館時間  9:30~16:30
休館日
 4月~10月:月曜(祝日の場合は翌日)
 11月~3月:月・火曜(祝日は開館)
 ※9月・1月・2月に臨時休館あり
公式ウェブサイト
 http://www.tanuki-ko.gr.jp/
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気さくな常勤スタッフの皆さん。右から小野さん(ニックネーム:ちょびひげ)、佐々木あずみさん(ずーみん)、寒河江大亮さん(えびちゃん)。

富士箱根伊豆国立公園内の田貫湖畔に2000年7月にオープンした、国設の自然学校第1号となる施設。雨でも遊べる2階建ての広い自然体験ハウスは0歳児でも安心して過ごせるよう靴を脱いで入るスタイルで、利用者は毎年約10万人を数える。自然と人、人と人との触れ合いに重点を置き、3名の専属スタッフによる自然解説展示や、『富士山洞くつ探検』『季節の自然さんぽ』『クライミング体験』などの各種自然体験プログラムが楽しめる。

 







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人気の「昔あそびコーナー」には世代を超えた交流と笑顔をもたらすアイテムが数多く揃う。 スタッフ手づくりの展示が自然や生き物への親しみやすさを演出している。
   
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毎年7月に開催される自然塾最大のイベント『たぬき湖夏まつり』の様子。今年は遊びと学びの体験コーナーにグルメブースも加わり、天候に恵まれたこともあって例年以上の人出で賑わった。


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