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トップページ > 地域情報紙 > トップインタビュー(vol.108)

今月のトップインタビュー


 
 身体と心は、ひとつ

 ボディビルダー 井上 裕章   



 表紙から強烈なインパクトとともに登場していただいた井上裕章さんは、富士宮市でトレーニングジムを経営しながら、自らもボディビルダーとして大会を転戦する日々を送っている。競技歴は18年。過酷を極めるトレーニングや減量によるストイックな生活を続けることで、古代ギリシャ彫刻をも凌駕するかのような肉体美を獲得した井上さんだが、今回のインタビューを通じて特に感銘を受けたのは、肉体と相まって研ぎ澄まされた精神力と一本気な信念、そして支えとなる身近な人々への思いだった。人は鍛えに鍛え、強くなればなるほど、優しく謙虚になれる。井上さんから発せられる熱い言葉を浴びるうちに、ボディビルという独特な世界の見え方、そして『マッチョ』という言葉の定義すらも、心地良く変わっていくのを感じた。FacetoFace108top1




  スポーツ経験ゼロから 日本一の肉体を作る



 ボディビルと出会って、競技者として大会に参加するまでになった経緯は?

 「二十歳くらいの頃にトレーニングジムに通い始めたのが最初のきっかけですね。今の若い子と同じで、腹筋を6つに割りたい、大胸筋を動かせるようになりたい、という程度です。要するにカッコよくなりたい、目立ちたいということですよ(笑)。実は僕、こう見えて学生時代にはスポーツも部活も全くやっていなくて、運動全般に関して完全に素人でした。家業の手伝いをしながら、仕事が終わってからジムに行くんですけど、最初のうちはトレーニングが辛くて、いろんなジムに入っては辞めてということを繰り返していました。そんな中、富士市内のあるジムのコーチと出会って、全てが変わりました。めちゃくちゃ厳しくて、ああでもないこうでもない、こんなこともできないのかと、ボロクソに言われて、本当にシゴかれたんですけど、今にして思えば、そのコーチこそが身体以上に精神を鍛えてもらった、いわば人生の師匠です。24歳の時に初めて県大会の新人戦に出たんですけど、初めて出た試合で優勝したんです。その時は『俺って天才?』と思いましたよ(笑)。ところがその後の試合で全然結果が出なくなって、コーチのところに相談に行ったら、『お前、そんな身体で大会に出るの?勝てるわけないじゃん』と鼻で笑われたんです。もう悔しくて悔しくて、そこからはある意味試合そっちのけで、とにかくコーチをギャフンと言わせることだけを考えながらトレーニングに打ち込みました。すると大会で上位に入れるようになって、『どうだコーチ、見直したか!』と報告に行ったら、『じゃあ今度からトレーニングは週3から週5だな』と、こうくるわけです(笑)。でも振り返ってみると、コーチはきっと僕の性格や行動パターンを理解した上で、わざとハッパをかけていたんですね。コーチの言う通りにやっていくことで試合での成績も良くなって、それからはどんなに厳しいことを言われても、これは愛情なんだと思えるようになりました。また、勝った負けたはあくまでも結果でしかなく、大事なのはそこまでの過程です。コーチは僕が苦しみ抜く姿や、その苦しみとどう向き合ってどう感じたかということをしっかりと見てくれて、分かってくれたんです。だから信じて頑張ることができましたし、結果として今の自分があります。筋肉の作り方や技術以上に、中途半端だった僕をボディビルダーとしてはもちろん、人間としても育ててもらったと思っています。」


 その経験を踏まえつつ、現在ではご自身がトレーニングジムを経営して、多くの人を指導・育成する立場となったわけですね。

 「そうですね。ただ、ジムは必ずしもボディビルの選手を育成するための場ではありません。一般の方がジムでトレーニングを行うことは、日常生活にもさまざまなメリットがあります。例えば年輩の方が適切な運動をすることは健康維持や病気の予防にも効果があって、旅行先でもたくさん歩けるようになったとか、食事がおいしく感じるようになったとか、いろんな声を聞きます。同じトレーニングを繰り返すことで、身体のキレや重さなど、自分の体調に敏感になれることも大きいです。年輩の方ほど運動の効果を実感できるようで、最近では60~70代の方も増えています。僕の持論ですが、人は年齢を重ねると知識や経験が身について、本来はどこまでも成長していくものだと思うんです。そこに体力がついてくればもうスーパーマンですよ(笑)。ボディビルというと、限られた人のスポーツというイメージがあるかもしれませんが、文字通り、身体を作ることが本質ですから、人それぞれの体力や目的に合ったトレーニングをすればいいんです。全員が競技者を目指す必要はありません。動ける人、歩ける人なら誰でもできることですから、年齢・仕事・病気を言い訳にせず、まずは身体を鍛えて、何事にも挑戦していく意欲を持ちましょうと、これからも広く伝えていきたいですね。」


  本当に手に入れたいのは、
  誇りある生き方
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 容姿や体力が変わることに加えて、精神的な作用も大きいということですね。

 「僕のジムに来てもらっている会員さんには、身体を鍛えること以上に精神を鍛えることを意識してほしいと思っています。鍛える目的はさまざまでも、そこに向かって真面目に取り組んでいこうというジム全体の雰囲気作りも大事です。トレーニングは厳しいですが、そこにある精神的限界を自分自身でどう見極めて克服していくのか、苦しくて立ち止まった時にもう一歩二歩進めるか、その点を何よりも重視しています。また減量で自らに制限を課した中で食事をする時の美味しさ、そういう中にこそ健康であることへの感謝の気持ちや生きている実感があるんだと思います。やりたいことをやって食べたいものを食べることはストレス発散にはなっても、果たして本当に幸せであるかどうかは分かりません。ジムを始めて4年で、ボディビルの県大会や新人戦で優勝する人も出てきましたが、やはり高い意識を持った人同士が集まると、自然と全体のレベルが上がってきます。数多くの会員さんの中で、最初からボディビルの選手になるためにジムに入ってきた人なんて一人もいないんですよ。身体を鍛えたい、健康を維持したい、ダイエットしたいというそれぞれの目的を持ってトレーニングする中で、仲間の試合の応援に行って、その姿に感動して、自分もやってみたいという気持ちになるんです。ダイエットのつもりでジムに来た女性があっという間に東海大会で準優勝なんていうことも実際にありますし、当初の目的はそれぞれでも、真剣な人間同士が交わると、それまで知らなかった世界が広がっていくんですね。それと最近嬉しかったのが、50代の男性会員の話で、身体を鍛えてコンテストに出場することを通じて、大学生の娘さんも感化されて、同じ大会を目指すようになり、共通の話題や目標ができたということでした。ボディビルを通じて親子のつながりが深まるのは素晴らしいなと思いました。」


 経営者である井上さんご自身が競技者として第一線で活躍を続けることには、どんな思いがありますか?

 「正直なところ、常にやめたいし休みたいんですよ(笑)。競技としてのボディビルは本当に大変ですから。でも一言で言うなら、『まずは自分がやって見せなきゃ』という気持ちというか、意地ですよね。口でどんなに立派なことを言っても、それに行動が伴っていないのはカッコ悪いじゃないですか。だからジムで会員さんに喝を入れていても、内心では自分自身に言い聞かせているんです。そして僕自身の身体で経験したことや感じたことを、苦しい、悔しい、悲しい、嬉しい、楽しい、全部そのまま見せているつもりです。特に今年は海外での国際大会も含めて、大きな試合にたくさん出場して、3大会連続で優勝できた喜びもあれば、同点審査で負けて決勝に進めなかった悔しさも味わいました。経験することで初めて気づくこともたくさんあるので、どれだけキャリアを積んでも、常に新人のつもりでやっています。また、大会のたびに過酷な減量とトレーニングを課す中で、筋肉のメリハリを出すために、身体の水分をギリギリまで抜く必要があって、水分を蓄える性質のあるナトリウムの摂取まで制限するんです。自分を極限状態まで追い込んで初めて作り出せる肉体だからこそ、その先にある心の豊かさや自信が手に入るんです。ボディビルダーの筋肉は見せかけだと言う人もいますが、その筋肉を作り上げるにはどれだけの精神力が必要か、ということです。僕には自分を表現する方法がボディビルしかないので、この世界では誰にも負けたくないという思いはあります。その覚悟をしっかりと実践していくことで、後に続く人にも奮起してほしいですし、ボディビルは苦しいだけじゃない、いろんな人との出会いや良い刺激にも恵まれて、自分を高めてくれるものなんだということを、身をもって示していきたいと思っています。」



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競技大会でポーズを決める井上さん



 競技としてのボディビルについて、一般的にはイメージが先行していて実はよく知られていないと思うのですが。

 「基本的なことですが、ボディビル競技は力自慢大会ではなく、審査によって肉体美を競うものです。筋肉の大きさ、形、鮮明さに加えて、左右対称や全体の均整が重視されます。腕や胸だけが大きくてもダメなんです。審査では音楽に合わせたフリーポーズなどもあって、ポーズ自体での加点や減点はありませんが、どの筋肉に力を入れて、抜いて、どういう角度で見せたら一番きれいに映るかという意味では、ポージングの研究も重要になります。鏡の前に立ったり、人からアドバイスを受けたりしながら、筋肉の細かな動きに意識を向けていくと、それが日々のトレーニングにも活きてきます。結局はトレーニングのうまい人、つまり筋肉をコントロールできる人にしかいいポーズは作れないんです。また、僕は表情や雰囲気作りにもこだわっています。元々身体は大きな方ではないんです。線が細い分、気迫を前面に出して、表情で自分を大きく見せるようにしています。それと、審査員にだけ見せる競技だったら会議室の中で品評会みたいにやればいいわけで、わざわざお金を払って会場に来てくれるお客さん、応援してくれる皆さんに対して、ショーとして価値あるものを見せたいという気持ちが強いですね。テレビで歌手やダンサーのステージを見ても参考になる表情やしぐさはたくさんあって、例えば前を見るにしても、一度俯いてからグッと見上げるとか、遠くの客席をゆっくりと見渡してからポーズに入るとか、研究すればするほど、『見せる』こと、そして『魅せる』ことの奥深さに気づきます。まだまだ誤解されている部分もあるかもしれませんが、僕自身が先頭に立って、ショーとしてのボディビルをもっと盛り上げて、より多くの人に『カッコいい!』『自分もあんな風になりたい!』と関心を持ってもらえるようにしていきたいですね。」



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井上さん自身がトレーニングに打ち込む姿がジム全体の雰囲気を作る  



 井上さんにとって一番大きな原動力は?

 「やはり自分を高めてくれる人への情というか、感謝の気持ちですね。ボディビルは個人競技ですけど、一人よがりでは絶対に続かないんです。筋肉をつけて外見だけ強そうに見えても、それを鼻にかけて威張っている人間なんて論外です。トレーニングはひたすら無心でやっていても、お世話になった人、応援してくれる仲間に励ましてもらえると、それがどんなに苦しくても、なんとかして報いたいという気持ちになるんです。大会に出る時はジムの代表であり、井上家の代表であり、国際大会であれば日本中のボディビルダーの代表として行くわけですから。いつもやめたい、休みたいという気持ちとせめぎ合いながら頑張って、それでも試合で思うような結果が出なかった時は、身も心も燃え尽きて一度は灰になるんですけど、なぜか小さな種火はずっと残っていて、そのうちまた燃え始めるんです。周りの人に『大会盛り上がったね!』とか『まだまだ上に行けるよ!』と魔法をかけてもらうと、『そうだ、俺はまだ行ける!』って自分で自分を騙しながら、もうひとつ上を目指してやっていくという、ただそれだけです。だから究極の目標は試合での勝ち負けじゃないんです。昨日までの自分には見えなかった新しい景色が見たいだけ。そのために真面目に必死に苦しんだことを、10年20年先に胸を張って語れるような、そんな人間になっていたいんです。そしてもうひとつ言いたいのは、妻への感謝です。食事も含めて僕の体調管理はすべて妻がやってくれますし、ジムの経営も妻がいたからこそ始められました。周りからは『何を夢みたいなこと言ってるの?』と反対もされましたし、たまたま東日本大震災の直後で、必要な設備機材が入ってこなくて、こんな大変な時にジムに来てくれる人がいるだろうかと不安にもなりましたが、妻が明るく背中を押してくれて、『私はあなたと一緒に重荷を背負って生きていく』とまで言ってくれたんです。そこまで言わせておいて、僕だけが弱音を吐くわけにいかないじゃないですか。僕は決して強い人間じゃないんで、惨めで情けない姿もさらけ出して、全部ひっくるめた『人間・井上裕章』として勝負していくしかないんですけどね。二十歳の頃にイメージしていたカッコ良さとは意味が全然違いますけど、結局は今も昔もカッコつけて生きていたいだけですよ(笑)。」



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競技でもジムの経営でも二人三脚を続ける最愛の妻、けい子さんと 





    



  井上 裕章

  ボディビルダー
  トレーニングジム『ラビッチョ』代表

  1972(昭和47)年12月1日生まれ
  富士宮市出身・在住
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いのうえ・ひろあき/20代前半から身体づくりを目的としてトレーニングジムに通い、初めて出場したボディビルの大会で優勝を果たす。以後多くの大会で華々しい成績を収め、2015年には国際大会を含む大会3連勝を果たし、全国で販売される専門誌の表紙を飾るなど、名実ともにトップボディビルダーの仲間入りを果たす。2011年5月より富士宮市外神東町にトレーニングジム『ラビッチョ』をオープン。2014年『ミス21健康美大会』で日本一に輝いた経歴を持つ妻・けい子さん(日本ボディビル・フィットネス連盟公認3級審査員)との二人三脚で多くの会員の指導・育成にあたる。二児の父でもある。日本ボディビル・フィットネス連盟公認1級指導員、日本ボディビル・フィットネス連盟公認2級審査員。

【主な戦績】
 1997年 静岡県ボディビル選手権 新人の部 優勝
 2003年・2004年 日本社会人大会 優勝
 2004年 静岡県ボディビル選手権 優勝
 2007年 西日本70キロ 優勝
 2007年 東海ボディビル選手権 優勝
 2015年 日本クラシック171cm以下級 優勝
 2015年 アジアボディビル選手権 クラシック171cm以下級 優勝
 2015年 ジャパンオープン選手権大会 優勝
 2015年 世界クラシック171cm以下級 7位



 トレーニングジム Rabbitcho(ラビッチョ)  http://rabbitcho.lolipop.jp/

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富士宮市外神東町84-5
TEL:0544-68-2419
営業時間:月~金 10:00~22:00
     土曜日 10:00~20:00(6~10月)
         10:00~18:00(11~5月)
定休日:日曜日・第3土曜日(臨時休業あり)

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