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トップページ > 地域情報紙 > トップインタビュー(vol.96)
今月のトップインタビュー

  日本酒に恋して

         富士正酒造 唎酒師
   佐野 由佳


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 標高900m。すでに初冬の装いを見せる朝霧高原に、早朝から甘い香りと湯気が立ち上る。2012年に富士宮市下条から同市根原のあさぎりフードパーク内に移転した富士正(ふじまさ)酒造の酒蔵では、今まさに新酒の季節を迎えている。国内消費の日本酒離れが指摘される昨今ではあるが、江戸時代から脈々と受け継がれてきた酒造りの文化は、この地域におけるかけがえのない財産に他ならない。
 ここに日本酒への熱い想いを抱く女性がいる。佐野由佳さんはこの蔵元の長女として生まれ、現在は直売店のスタッフとして販売や営業を担当する26歳だ。昨年10月には唎酒師(ききざけし)の資格を取得し、日本酒の知識とおもてなしの心に日々磨きをかけている。造り手も消費者も年輩の男性が大半を占める業界の中で、明るい笑顔を絶やさず走り続ける看板娘の心意気に、乾杯。




 お酒の銘柄を当てる人ではありません


 蔵元の長女として、小さな頃から仕事を学んできたのですか?

 「いえ、以前は家業にまったく関心がありませんでした。兄と弟がいることもあって、子どもの頃から私だけ放任というか、蚊帳の外というか、いわゆる世間知らずのわがまま娘です(笑)。酒蔵は女人禁制というわけではありませんが、杜氏(とうじ)をはじめ、やはり男性中心の仕事場で、入りにくい雰囲気はありましたね。家業とは関わりのないまま、大学卒業後は住宅メーカーに就職して、1年目から現場監督を務めました。施主様と現場の職人の間に立って家造りをする仕事にやりがいを感じていましたが、2年半前、この直売店のオープンにあたって地元に戻ってきました。社長・専務でもある両親から『天性の明るさを持つあなたが必要!』と口説かれまして(笑)。でも造り手とお客様双方の声を聞いて、より良い商品を提案していくという意味では共通点も多くて、前職での経験はとても役立っています。私は写真だとおとなしそうに見えるらしいんですけど、全然そんなことはありません。ここでは遠方からの団体のお客様に接する機会も多いのですが、初対面や大勢の人の前で話すことも苦にならないんです。たまにうっかりお客様との会話に夢中になりすぎて、レジに行列ができていることにも気づかないくらいです(笑)」


 日本酒について勉強する中で、唎酒師の資格に出会い、去年取得したそうですね。

 「唎酒師はテレビのバラエティー番組で見るような、飲み比べてお酒の銘柄を当てる仕事、ではありませんよ(笑)ワインのソムリエと同じで、日本酒の歴史・種類・製造法などの基本的な知識はもちろんのこと、料理との相性や器の選び方、状況に応じてどのお酒を提供するべきかというような、トータルコーディネートの能力が求められます。日本酒を介したおもてなしの心と作法を身につけるための資格といえます。販売の現場でお客様と触れ合う中で、日本酒についてもっと学びたい、より多くの人、とりわけ同世代の女性にも日本酒の魅力を伝えたいという思いが強くなったことが、唎酒師の資格を取得した一番の理由です。仕事も趣味も関係なく、とにかく興味を持ったらとことんはまってしまうタイプなんです。また、日本酒=年輩の男性というイメージを払拭して、20代の娘が日本酒を語ることに説得力を持たせたい、そしてお客様に信頼感を持っていただきたいという気持ちもありました。これは蔵元の娘としてのプライドでもあります。」


 とはいえ、味や香りを言葉で伝えるという作業は難しいですよね。

 「味覚や嗅覚は人それぞれで、好みもありますし、わざと難解な表現にしても意味がないので、なるべく分かりやすい言葉で日本酒の魅力やそれぞれの違いを伝えるようにしています。例えば、私が説明でよく使う『お米を噛み締めたときの味がする』という表現は、お米に由来する日本酒独特の旨みのある後味のことです。また『香ばしい』という表現もよく使いますが、これは熟成酒に多い感触で、焼きとうもろこしのような風味です。誰でも具体的に想像できる言葉に置き換えて伝えることが大切で、その点では普段の食生活の中でも、常に味と香りにはアンテナを張っています。ひとつの食べ物の中に含まれたいろんな味を頭の中で別々に分解したり、想像で香りを味に変換したみたり。例えば、『キンモクセイの香りは爽やかで軽いけど、液体化して飲むとしたら、けっこう重たいだろうな』とか。そういう情報を断片的に記憶の中に残しておいて、何かの味や香りを説明する時に言葉にしていくという感じです。そういえば子どもの頃、ウニが嫌いで、『絵の具の匂いの味がする!』と言ってましたから、すでにその片鱗はありましたね(笑)」


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 私自身が観光の一部になって 富士宮の地酒文化を広めたい



 日々の接客で心掛けていることは?

 「とにかくお客様と会話をすることです。直接お話をして、好みや要望に合うお酒を提案するようにしています。人によって口当たりも違いますし、せっかくだったらその方に合ったお酒を一番いい飲み方で飲んでいただきたいですから。呑んべえさんにはこのお酒をすっきりする冷やで、若い女性には身体を冷やさないようにこのお酒を熱燗で、という感じです。ですから店内にはなるべくお酒の紹介文などは出さないようにしていますし、おすすめセットのような画一的な商品も置きたくないんです。お客様にとって、この施設や私との会話も思い出のひとつになればいいなと思っています。『当店人気ナンバー1』とだけ書かれた商品を買って帰るよりも、後で『唎酒師のお姉ちゃんから薦められた酒をお土産に買ってきたよ』という会話が生まれる商品の方が、贈られる側もきっと嬉しいと思うんです。」


 旺盛なサービス精神はどこから?

 「根っからの性格なのかもしれませんが、大学時代に居酒屋で4年間アルバイトをした経験も大きいと思います。飲んでいるお酒の種類によってお薦めするおつまみを考えたり、たくさん飲む人には頼まれなくても和らぎ水を出したり、お客様の気持ちの先回りをしながら、どうすれば満足していただけるかということを常に考える習慣ができました。ただ注文を受けて対応するだけではなく、積極的にお客様へのサービスをプロデュースしていくことに喜びを感じるんです。限られた時間の中で楽しんで帰っていただくという点では、居酒屋の2時間も直売店の10分間も同じだと思います。また居酒屋アルバイトの思い出として、今の自分につながる苦い経験があります。取引先の酒販店が開く日本酒選定会というものが定期的にあって、全国各地の地酒をお客様自身が飲み比べて店に置くお酒を決めるんですが、富士正どころか、静岡県内のお酒が一つも出てこなかったんです。当時はまだ家業に関わる予定はなかったんですが、これほどまでに認知されていないのかと、さすがにショックでしたね。」


 PR活動は佐野さんにとって今後の目標にもなりそうですね。

 「はい、富士宮の地酒文化をもっと伝え広めたいという思いは強く持っています。現在、富士宮市内には4つの酒蔵がありますが、比較的狭いエリアにこれだけ密集しているというのは県内では珍しいことです。もちろんライバル同士ではありますが、私はあえて4蔵が合同でイベントの開催や情報発信をしていくことで、地域全体が盛り上がるんじゃないかと思っています。この地域のお酒にとって、富士山の伏流水は切っても切り離せない存在ですが、工業都市になった富士市でも酒造りが盛んな時代があって、かつては富士・富士宮だけで20以上の酒蔵があったそうです。まずはこの地域に暮らす人に、地元のお酒の魅力や歴史について知ってほしいですね。具体的には居酒屋を貸し切って地酒と料理を楽しむ『蔵元の会』みたいなものができたらいいなと思います。お酒好きと蔵元の人が集まって、富士宮の地酒について語りながら交流することで、今まで知らなかったお酒との出会いや、面白いアイディアも生まれてくるはずです。それと、個人的にはいつか自分自身が飲みたい最高のお酒を世に出したいという夢があります。まだまだ勉強不足ですし、杜氏との意思疎通を深めていく必要もありますが、実はそのお酒、名前だけはすでに決めてあって、『きむすめ』っていうんです。いえ、漢字は『生娘』じゃなくて『鬼娘』です。私らしいって、よく言われます(笑)。』







 佐野 由佳 (さの・ゆか)


 富士正酒造合資会社 唎酒師


 1988(昭和63)年7月29日生まれ

 富士宮市下条出身・在住

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富士宮・上野の地で1866(慶応2)年から続く蔵元の長女として生まれる。加藤学園暁秀中学・高校を経て桜美林大学リベラルアーツ学群に進学し、心理学を専攻。在学中4年間アルバイトとして働いた居酒屋で、酒がもたらす笑顔の輪、日本酒と和食との組み合わせに魅力を感じる。大学卒業後は神奈川県内の住宅メーカーに就職し、現場監督として活躍。ものづくりのコーディネートを学ぶ。1年後、あさぎりフードパーク内の直売所開業に伴い、家業を手伝うため帰郷。販売・営業・事務を兼務しながら日本酒に関する知識と経験を積み、2013年10月に唎酒師の資格(日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会認定)を取得。今年5月にふじさんめっせで開催された『富士のふもとの大博覧会』では『富士のふもとの看板娘賞』を受賞。日本酒の魅力を地域内外に向けて発信すべく、日々奮闘中。





FacetoFace96top4 富士正酒造 あさぎり蔵

食と自然の融合をコンセプトとした地元企業6社が共同出展する商業施設、あさぎりフードパーク(入場無料)内にあり、朝霧高原の澄んだ空気と地下200mから汲み上げた富士山の伏流水を用いた日本酒や関連商品を販売。試飲や酒蔵の見学も随時可能で、観光客を中心に人気のスポットとなっている。営業やイベント出展などの外出時を除き、通常は佐野さんも店頭に立っているため、唎酒師としてのアドバイスやお薦めも聞くことができる。

  所在地:富士宮市根原450-1
 TEL:0544-52-0313
 営業時間:9:00~17:00

◆ 富士正酒造合資会社

 http://www.fujimasa-sake.com/

◆ あさぎりフードパーク
 http://www.asagiri-fp.com/wp/

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