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トップページ > 地域情報紙 > トップインタビュー(vol.91)
今月のトップインタビュー


 三味線が奏でる 文化の風

           三味線演奏家   
佐藤 さくら子
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 本紙トップインタビューの最年少記録を大幅に更新して、ついに平成生まれが登場する。今回紹介するのはプロの三味線(しゃみせん)演奏家、佐藤さくら子さん。公私それぞれの写真を見比べると、その印象の違いに驚くかもしれないが、それもそのはず。数百年の歴史を持つ長唄(ながうた)三味線の世界では伝統と格式が重んじられ、年功序列はもちろんのこと、礼儀作法や髪型、演奏中の視線の位置に至るまで、様々な配慮や素養が求められるという。そんな厳しい環境に身を置く佐藤さんだが、素の表情はキラキラとした25歳の女性そのものだ。伝統を学び、受け継いでいこうとするひたむきな思いとともに、等身大の“今”を語っていただいた。

 芸事の香りと伝統が息づく 吉原のまちに生まれて



 三味線を始めたきっかけは?

 「三味線を習い始めたのは3歳の頃です。吉原のまちには古くから芸事の文化が根づいていたこともあって、母には箏(こと)、私には三味線を習わせたいという祖母の強い希望があったようです。物心がついた頃にはすでに三味線を弾くのが当たり前になっていました。といっても英才教育のようなものではなく、中学の頃はバスケットボール部にも所属していましたし、月に2回程度、習い事のひとつとしてやっていました。当時の先生がものすごく優しい方で、私が稽古中に居眠りしていても、叱ることもなくニコニコしているんです。周りのお弟子さんの中で子どもは私だけだったということもありますが、技術だけを詰め込むのではなく、まずは演奏を楽しむことを第一に指導していただいたおかげで、三味線を嫌いになったことはこれまで一度もありません。また私は一人っ子なんですが、小さな頃からお正月やお祭りの時には必ず家族揃って着物を着るという家庭に育ったので、着物で舞台に立つことにも抵抗がない、というより、むしろそれが楽しくてやめられないという感覚でした。だって女の子が着物を着ると、周りの大人達がチヤホヤしてくれるじゃないですか(笑)。」


 いつ頃からプロになろうと決めたのですか?

 「プロになる以前に、まず芸大への進学を目指したのが大きな転機でした。高校に入って進路について考えた時、今後の人生で三味線をなくしてしまったら自分じゃなくなるような気がして、芸大に進もうと決意しました。そこから生活がガラッと変わって、それはもう毎日必死に練習しましたね。その時点では将来的に三味線の演奏家として食べていけるかどうかはまったく考えていなくて、とにかく芸大に入るということが目標でした。そういう意味では大学進学までは大きな挫折もなく、家族や先生方の支えもあって、のびのびとやらせてもらえたと思います。大変だったのはむしろ大学に入ってからで、全国から優秀な人材が集まってきますし、同級生の中には流派の家元の後継者で、生まれながらにして三味線を弾くことが宿命づけられているという人もいました。そんな環境での稽古、そして切磋琢磨の毎日ですから、思うように演奏できない時には悔しくて、泣きながら実家に電話をかけたこともありました。」


 現在の主な活動内容は?

 「長唄の演奏家としての活動が中心です。長唄というのは江戸時代に歌舞伎の伴奏として発展した近世邦楽のひとつで、三味線音楽の代表的な分野です。基本的には唄と三味線で構成されますが、曲目によっては太鼓や笛などのお囃子(はやし)がつくこともあります。三味線というと賑やかな津軽三味線をイメージする人が多いと思いますが、あちらは民謡の分野に入りますね。大学院を卒業してからは、芸大出身者で構成する『長唄東音(とうおん)会』という演奏団体に所属して、国立劇場や日本橋劇場などで開催される公演に参加するほか、依頼があれば料亭などでも演奏しています。団体に所属しているとはいえ、実際には人とのつながりの中で仕事をいただくというのが基本で、場合によっては三味線を弾きながら自ら唄うこともあります。また一般向けには古典の長唄だけではなく、現代曲も演奏するユニットを組んで活動しています。東京での活動が大半ですが、地方に行くこともありますし、ここ2~3年は地元の富士市でも演奏する機会をいただけるようになりました。また私が三味線を教える稽古場が東京の2ヵ所に加えて富士市にもあるので、月に何度かは地元に帰ってくるという生活です。」




 いつの日か、最前列の真ん中へ


 三味線や邦楽に対しては敷居が高いと感じる人も多いのでは?

 「たしかにそれはあると思います。だからこそ、芸大で専門的に学んできた私達が邦楽離れへの危機意識を持って、普及のための取り組みを続けていく必要があると思っています。例えば大学院時代の同級生で結成したユニットの『寿々(じゅじゅ)』や『Bob'(ボブ)ズ』などは、特別な知識や地位を持つ人だけではなく、より多くの人に三味線・尺八・箏などの邦楽に触れてもらう機会を作りたいという思いで活動しています。『
Bob'ズ』は大学祭のステージを意識して、メンバー6人全員が金髪でボブのかつらと洋服で演奏するという斬新なスタイルなんですが、これが意外と好評なんですよ。大学の先生にはあまりいい顔をされませんでしたけど(笑)。富士市では8月に私の生徒さんの発表会を兼ねた演奏会を開催します。そして最近考えているのが、富士市内の学校で授業の一環として、子ども達が三味線に触れる機会を作りたいということです。ただ演奏を聴くだけではなく、直接手に取って弾いてみることで、より親しみや理解が深まります。東京などでは当たり前に行われていることなのに、それが地元には定着していないことが残念でなりません。すでに具体的なプランも練っているので、今後関係先に働きかけて、ぜひ実現させたいです。私が常に意識しているのは、三味線を通じて文化の風を吹かせたいということです。音楽としての魅力はもちろん、演目のストーリーや所作も含めて、三味線は奥深く味わいのあるものです。実際に幼稚園や老人ホーム、お祭り会場などでの演奏はすごく喜ばれますし、より多くの人に気軽に触れてもらえる機会が増えれば、きっと親しみを感じてもらえると思います。」


 休日の過ごし方は?

 「子供の頃から絵を描くことが大好きで、小さなスケッチブックを手元に置いています。休みの日や仕事が終わった後など、時間があれば絵を描いていますね。特にテーマは決まっていなくて、水彩絵の具やボールペンで目の前にあるものを写実的に描いたり、想像したイメージを描いたり。仕事が何日も続いた後でも、ひたすら描くことに没頭することで気持ちをリフレッシュできるんです。もうひとつ、リフレッシュといえば、お酒ですね(笑)。職業柄か、おとなしいイメージを持たれることが多いのですが、実際はアウトドアやスポーツも大好きで、海で沖まで泳いだり、フットサルのチームに入ったりと、かなり活発な方だと思います。音楽でも仕事とプライベートは違って、普段聴くのは洋楽やジャズが多いですね。ほとんどの場合、歌詞の内容よりもメロディーが気に入って聴いているので、英語ができなくても問題ありません(笑)。仕事に向かう電車の中では好きな音楽を聴いて気持ちを高めてから、『さあやるぞ!』という感じです。プライベートでどれだけリラックスしていても、衣装の着物を着た瞬間、スイッチが入って頭が仕事モードに切り替わりますね。」


 今後の目標は?

 「実は最近、初めて人の舞台を見て涙を流しました。所属する会の50周年の演奏会で、ある大先輩の先生の姿に感動したんです。82歳というご高齢なんですが、今なお現役で、その先生がスポットライトを浴びて、凛とした佇まいで三味線を弾く姿が本当に格好良かったんです。そして私もいつかこんな風になりたいって、心から思いました。演奏の速さや音量など、年齢によって衰えてくる部分は否定できませんが、技術を超えたところでにじみ出る風格や気品があるんです。また演奏会の最後には約80人の奏者全員が舞台に出る演目があったんですが、その先生は当然ながらひな壇の最前列の真ん中で演奏します。私は若手なので、最後列の脇の方ですが、今の私の役目はこの先生の演奏をサポートすることだって、自然に思えたんです。それまでは自分がどれだけ上手に弾くかということに専念していたんですけど、大事なことはそれだけじゃないんだと気づいた瞬間でした。すると不思議と両親やこれまでお世話になった方々への感謝の気持ちも改めて湧いてきて、もうその日はずっと泣きっぱなしでした(笑)。最前列の真ん中で弾く人には、そうなるべくしてなったという理由があるはずです。ただ上手いだけじゃなくて、人格的にも周りに認められていなければたどり着けない場所なんだと思います。私も最後は絶対、一番輝くあの場所で三味線を弾きたいんです。そして今の自分と同じように、最後列から私の背中を見つめる後輩達に憧れを抱いてもらえる人になるために、これからも日々成長していきたいです。」






 佐藤 さくら子(さとう・さくらこ)


 三味線演奏家


 1989(平成元)年3月19日生まれ (25歳)
 富士市今泉出身・東京都在住

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 3歳より三味線を学び、故・杵家(きねいえ)弥佐七氏に師事。今泉小、吉原第二中、富士高を経て東京芸術大学音楽学部邦楽科へ進学。2013年、同大学音楽研究科大学院修士課程を卒業。現在は杵家七三氏に師事。長唄東音会に所属し、同会による公演活動をはじめ、劇場・料亭・各種イベントなど、多方面での演奏活動に参加。浄観賞・アカンサス賞・同声会新人賞・市川市新人演奏家コンクール優秀賞などを受賞。ニューヨーク、ナッシュビルなど海外での公演にも参加し、NHK・Eテレ『新春桧舞台』などテレビ番組にも多数出演。さらに大学院の同級生と結成したユニット『寿々』(三味線・尺八)や『Bob'ズ』(箏・十七弦・尺八・篠笛・三味線・打楽器)の活動などを通じて、古典だけではなく現代音楽を含めた幅広い演奏を行う。東京の大塚と巣鴨、富士市今泉に稽古場を持つ。地元では富士市文化祭に毎年参加しているほか、影絵劇団『Kage-Boushi』(かげぼうし)の音楽作曲・演奏を行うなど、地域活性化や文化振興の面でも積極的な取り組みを行っている。


 ● ホームページ  https://sites.google.com/site/shamirakosatou/
 ● ブログ 『さくら子のhappyブログ』  http://ameblo.jp/ssac-cass/



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劇場での公演の様子

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東京・東銀座の料亭『花蝶』での演奏(右から2番目奥が佐藤さん)

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邦楽ユニット『Bob’ズ』のメンバー(一番右が佐藤さん)

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三味線で使用する独特な譜面



【公演情報】

『長唄 夏のお浚(さら)い会』
  日時:8/24(日)13:30~(13:15開場)
  会場:ラ・ホール富士 6F 和室
     入場無料

佐藤さんの門下生による発表会に合わせて、佐藤さん自身の演奏はもちろん、プロとして第一線で活躍する若手演奏家を東京から招いての公演となる。富士市では初の試みだが、長唄三味線に馴染みのない人にも気軽に親しんでもらたいという佐藤さんの思いが込められたイベントだ。
【詳しいお問い合わせは公演事務局まで】
  富士市今泉3-6-3
  TEL:0545-52-0192/遠藤
  メール:sakurako.wa.genki@gmail.com

※ この他、9月には富士市の影絵劇団『Kage-Boushi』の公演への参加、12月には横井照子富士  美術館にて『Bob’ズ』の演奏会開催も内定している。


【三味線教室】

富士の稽古場では三味線教室の生徒を随時募集中。入会金は無料で、初回無料体験レッスンも行っている。三味線だけでなく、唄のレッスンにも対応可能。問い合わせ先は上記と同じ。




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