富士市で朝日新聞・静岡新聞・産経新聞・日刊スポーツ・サンケイスポーツ等の取り扱いなら星野新聞堂

  • 文字サイズ
  • 小
  • 中
  • 大
お問い合わせ
トップページ > 地域情報紙 > トップインタビュー(vol.89)
今月のトップインタビュー


 『ちぐはぐ』 な夢の途中

                映画監督
  渡辺 喜子



 今回紹介する渡辺喜子さんは、まさに“旬”の人だ。渡辺さんが脚本・監督を務めた自主制作の長編映画『tig☆hugちぐはぐ』が、入念な準備期間を経て、来たる6月22日(日)に富士市交流プラザで上映される。故郷・富士市での一般公開は渡辺さんをはじめ、数多くの地元支援者の皆さんの念願だったという。
 映像制作会社で働く37歳の男性主人公が理想と現実の狭間で葛藤し、人間味溢れる家族や仲間に支えられながら成長していく姿を描いたこの作品は、人生のほろ苦さを知る大人向けの青春ドラマだ。渡辺さんの実体験に基づいた脚本だけに、リアルな描写や台詞が時に切なくもあり、また親近感を抱かせる。その一方で、現実世界に突然現れては処世訓を語り、また笑いを誘う全身白塗りの不思議な登場人物[オッサン]の存在が物語のポイントになるという異色の設定だ。さらに、舞踏という要素を大胆に取り入れた点で、渡辺さんの個性や芸術的感性も垣間見ることができる。なにぶん公開前につき、詳細について多くは語れないが、富士市を舞台に展開する劇中では我々に馴染みのある風景が随所に見られ、作品自体の面白さに加えて、より一層楽しめる内容となっている。
 今回のインタビューでは映画の見どころはもちろん、この作品が生まれた経緯や渡辺さん自身が抱く故郷への思いについて、深く掘り下げて聞くことができた。




 私にしか作れない映画を 富士市で撮る



  富士市で生まれ育った子ども時代はどんな子でしたか?

 「通信簿の美術は『5』、体育は『2』の子でした(笑)。昔は内向的な性格で、友達付き合いもあまり得意ではありませんでした。ただ、絵を描くことが大好きで、学校の休み時間などは得意な絵を描くことで、友達と交流したり、子どもなりに人間関係のしがらみからなんとなく距離を置いたりしていました。また空想癖というか、一人で物思いに耽ることも多くて、例えば自宅の襖絵を見ながら、『なんで私はこの星のこの家に生まれてきたんだろう?』なんてぼんやり考えたりして。相当ヒマだったんでしょうね(笑)。でも家庭の中は愛情いっぱいでした。当時は自宅で紳士服の仕立て屋を営んでいたので、家には常に誰かがいましたし、両親・祖父母・3歳上の兄と、小さな空間で濃密な時間を過ごしていました。今にして思うと、素朴だけど幸せな幼少時代だったと思います。」


 映画との関わりは?

 「映画というよりも美術全般に興味があって、父が買ってきた百科事典の中から美術に関するものばかり何度も見返していました。高校生の頃は洋服デザイナーになりたくて、服飾関係の専門学校への進学も考えましたが、いろいろと調べる中で美術大学という選択肢があることを知って、腕試しのつもりでチャレンジしてみようと思ったんです。周りからは美大なんて絶対に無理だとも言われましたが、1年間の浪人生活も含めて一生懸命勉強して、絵を描いて、結果的に美大に入ることができました。その時の成功体験から、『努力すれば報われる、夢は叶うんだ』という実感を得られたことは、その後の人生にも大きく影響していますし、今回の作品に込められたメッセージにも通じる部分があります。大学では『在学中の4年間で一番感動したことを将来の仕事にしよう!』と心に決めたんですが、実際に一番感動したのが歌手のマドンナとマイケル・ジャクソンでした。彼らの音楽性や世界的な人気以上に、表現者としての徹底したこだわりや、批判を恐れず自分の道を進もうとする姿に心を打たれたんです。そこで歌手やダンサーを目指した時期もありましたが、あまりの才能のなさにすぐに心が折れました。だって体育は『2』ですから(笑)。映画という表現方法と直接的に関わるようになったのは大学を卒業してからです。いくつかの自主制作映画にスタッフとして関わったり、映像制作会社に勤めたりする中で、脚本だけでも音楽だけでも映像だけでもなく、複合的な表現ができる映画ならではの面白さに気づいたんです。そしてその中で自分の世界観を描くには、やはり自分自身が監督をやるしかないと思うようになりました。」


 今回なぜ富士市を舞台にした映画を作ったのですか?

 「一言で答えるなら、私自身の故郷だからです。ストーリー自体に富士市が舞台である必然性は特になくて、富士山やつけナポリタンをPRしているわけでもありません。ある登場人物が『この街は中途半端なんだよ』と主人公の故郷である富士市を罵るシーンがあるんですが、誤解を恐れずに言うと、あえてその中途半端な良さを描きたかったんです。私自身、中学や高校の頃はこの街に対してなんとなく空っぽで淋しい気持ちを抱いていました。毎日見慣れた変わらない風景で、特に賑やかな出来事もなく、時代の先端を行くようなお店も少ない。『ここにいても大きなことは何もできない、東京に行かなきゃ!』といつも思っていました。でも実際に東京に行って、この歳になって、自分なりに頑張りながら暮らす中で、この富士市で生まれ育った18年間こそが、今の自分を形成している核なんだということに気づいたんです。吉原商店街にあったヤオハンに行ったり、雑誌に載っている洋服を探し回ったり、岳南電車に揺られたり、当時は何もない平凡な毎日だったけど、この街で自分が一生懸命考えたことや悩んだこと、家族や友達と育んだ出来事すべてが、私の人生を彩る宝物なんです。また日々変化していく東京で自分を見失いそうになった時も、地元に帰って実家の居間に寝転がると心の中がクリアになって、今の自分の立ち位置を確認できる、そんな感覚があります。だから実際の富士市がどんな街かということではなくて、この映画を観た人それぞれが、映し出された風景を自分の生まれ育った街に置き換えて捉えてくれればいいと思っています。もちろん富士市の人が見れば『あ、ここ知ってる!』という場所がたくさん出てきますので、それはそれで楽しんでもらえると嬉しいです。」


 撮影時のエピソードは?

 「とにかく資金がなくて、スタッフや役者さんを拘束できる日数も短かったので、富士市での撮影では両親をはじめ、多くの方に様々な形で支援していただきました。主人公の実家のシーンは私の実家を丸ごと使って撮影していますし、登場人物が乗る自転車がなくて、近所の方に借りに行ったりして。この映画ではいろんな人の私物がたくさん登場します(笑)。あと、撮影中のスタッフの食事は私の母が作ったものを実家で食べてもらうという形にしたんですが、なぜかロールキャベツが大量に出てくるんです。後で母に話を聞くと、近所の食堂の方がキャベツを提供してくださったそうで。子どもの頃からよく知っている身近な方々の協力で自分の映画が作れるなんて、本当に幸せなことです。とはいえ、実際の撮影現場はかなりドタバタで、深夜まで走り回ったり、スタッフとの意見が噛み合わなくて言い合いになる場面もあり、なかなか大変でした。主人公は私自身の経験に基づいたキャラクターですが、なぜか現場のドタバタ感まで映画の内容と現実が似ているので、そのへんも想像しながら観ていただけると面白いかもしれませんね。」


 作品の中に舞踏という要素を取り入れた理由は?

 「4年前、大野一雄さんという世界的な舞踏家が103歳で亡くなったというニュースに触れて、自分でも理解できないほどのショックを受けたことが、この映画の脚本を書き始めたきっかけでした。大野さんとは特に面識もなく、舞台を直接観たことすらないんですが、本屋や美術館などでその映像を目にする機会があって、白塗りのメイクと奇抜な衣装で踊る独特な表現がなぜか強く印象に残っていました。そして彼が亡くなった時、『ああ、私は表現者としてこの人に嫉妬していたんだ』と初めて気づいたんです。改めて大野さんが踊る映像を見ると、その美意識の高さに圧倒されました。そして何より、前衛的で難解ともいえる舞踏という分野で、百歳を過ぎても生涯現役として独自の表現を貫き続けた彼の生き様を見て、まだ何でもやれるはずの自分が、いろんな理由をつけて表現する努力を怠っていることを恥ずかしく感じました。『ここでやらなきゃ、私はただ夢を語るだけの夢見る夢子に成り下がってしまう!』と奮起して、この作品を書き始めたんです。舞踏という一般的には馴染みの薄い要素をあえて取り入れたのは、大野さんへの敬意はもちろんですが、今の私にしかできない個性ある表現に挑戦したいという強い思いによるものです。」


 この映画で一番伝えたいことは?

 「もう若くない、センスもない、器用でもないという人間でも、本当にやる気になったら何かできる、夢は叶えられるということです。子どもの頃はできないことを誰かのせいにできたけど、大人になるとそうはいきません。でも逆に考えると、自分さえ変われば何でもできるはずです。周りの声や建前はどうであろうと、自分自身を諦めないで、裏切らないでということを伝えたいです。私は私自身が観客だったらどうしてほしいかを考えて、主人公と真っすぐ向き合いました。この映画を観た人に『そういえば自分もこんなこと考えてたな。今からでも何か始めてみようかな』と思ってもらえるきっかけになれば嬉しいですね。」


 今後の目標は?

 「いつかアメリカのアカデミー賞を獲りたいと本気で思っています。映画監督として、表現者として、歴史に残る名作を世に残したいという思いは常に持っていて、次回作の構想も練っていますが、いい作品を作るということには終わりがなくて、結局死ぬまで続けるしかないのかもしれません。映画を作るのは本当に大変で、まず自分の中に沸き立つものがあって、その感覚が新鮮なうちに、形ある作品にするんだという強い衝動がないと、絶対にできません。現実的な面でも、撮影や編集作業だけでなく、スタッフやキャストの手配や上映に至るまでの交渉など、超えないといけないハードルはいくつもあります。特に自主制作の場合はお金の工面も深刻な問題です。そこまでやったとしても、『この映画、面白くないね』と言われてしまえばそれまでという厳しい世界ですが、それでも作品作りを続けていられるのは、人の評価は評価として受け止めつつも、究極的に私は私自身と勝負しているのかもしれません。18歳の頃、『東京でひと旗揚げてやるぞ!』と誓って新富士駅から新幹線に乗った時の気持ちを今でも覚えているんです。脇道に外れたり立ち止まったり、それこそ『ちぐはぐ』な毎日ですけど、18歳だったあの日の自分に『この映画、面白いじゃん』と言ってもらえる、そんな作品をこれからも作っていきたいです。」





 渡辺 喜子(わたなべ・よしこ)


 1973(昭和48)年1月24日生まれ(41歳)
 富士市今泉出身・東京在住

 FacetoFace89top1
 今泉小・吉原第二中・吉原高校を卒業後上京し、多摩美術大学グラフィックデザイン科に進学。大学卒業後はグラフィックデザイナーなどのアルバイトをしながら、数々の自主映画の現場にスタッフとして参加。2006年から3年間、映像制作会社に勤務し、ミュージックプロモーションビデオやテレビドラマなどのアシスタントディレクターや助監督として活動。また並行して2011年まで役者事務所に所属し女優としても活動。2012年、自身2作目の長編映画『tig☆hugちぐはぐ』を脚本・監督・出演者として制作。6/22(日)には地元・富士市での上映(富士市交流プラザ多目的ホール)が決定している。現在は同作品のプロモーション活動に励みつつ、次回作も執筆作業中。好きな映画は『フラッシュダンス』(エイドリアン・ライン監督/1983年アメリカ)、『リフ・ラフ』(ケン・ローチ監督/1991年イギリス)、『キッズ・リターン』(北野武監督/1996年日本)など。


映画 『tig☆hugちぐはぐ』
6/22(日)富士市交流プラザ 2F 多目的ホール にて上映決定!!

  上映時間: 1回目:10:00開場 10:30開演 2回目: 13:30開場 14:00開演
    料金: 一般・シニア / 前売り1,000円(当日券1,200円)
        全席自由 ※ 未就学児入場不可

  《チケットは以下のプレイガイドで購入できます》
    ・ 富士市交流プラザ  0545-65-5523

    ・ ふじの町クリニック  0545-32-7711
    ・ 美容室 Meltin'Pot  0545-60-8814

    ・ ENEOS岩山石油  0545-61-0495
    ・ NPO法人フィルムコミッション富士  0545-52-5937

    ・ イタリアンレストランVIVACE  0545-57-7123
    ・ いでかみ  0545-61-0178

    ・ 金沢豆腐店  0545-52-1640
    ・ いもやゐも蔵  0545-71-8911

    ・ Honda Cars富士西  0545-52-0486
    ・ 富士市民活動センター コミュニティf  0545-57-1221

【あらすじ】
 東京の映像制作会社で働くアシスタントディレクターの相葉武(37)。仕事に追われ独身のまま、「自分のやりたい事」と「自分が今実際にやっている事」が徐々にかけ離れていく“ちぐはぐ”な生活を送る。そんな中、他界した舞踏家の祖父が言った『サイズの合わない窮屈な服を着て、一生踊り続けるのか?それとも、自分にぴったりの服を見つけ、それを着て生きるのか?』という言葉を思い出す。監督自身の実体験を基に、いきいきと描写された現実世界と、そこに突如登場する白塗りの[オッサン]が、不条理な社会で生き抜く秘訣を問う。

 FacetoFace89top2 映画 『tig☆hugちぐはぐ』 Facebookページ
 https://www.facebook.com/tighug2013

【監督】 渡辺 喜子

【出演】 平野 貴大 小野 了
     深水 三章 田村 泰二郎 春日 純一
     野中 隆光 黒田 耕平 佐藤 貴広
     姫野 洋志 小松崎 玲央 原口 裕成
     角谷 栄次 堂免一 るこ 芹澤 りな
     森川 千有 津野 岳彦 Velo武田
     佐々木 誠二 ほか

【主題歌】 『ちぐはぐ小径』 河口 恭吾 
※ 8月には静岡市葵区のサールナートホール/静岡シネ・ギャラリー(静岡市葵区御幸11-14)  でも上映予定。 http://www.sarnath-hall.jp/

【チケットプレゼント】
 6/22(日)富士市交流プラザで上映の映画『tig☆hugちぐはぐ』の鑑賞チケットをペア2組様 にプレゼントいたします。ご希望の方はハガキもしくはメールに「『ちぐはぐ』チケットプレ ゼント」と明記の上、住所・氏名・電話番号を添えてご応募ください。
  ◎ハガキ → 〒417-0049 富士市緑町1-28 星野新聞堂『Face to Face編集部』
  ◎メール → facetoface@shinbundo.com
 ※ ハガキ・メールともに5/2(金)必着
 ※ 当選者の発表は賞品の発送をもって代えさせていただきます



FacetoFace89top3
主要キャストとの打ち合わせ風景。 中央奥が渡辺さん。

FacetoFace89top4
渡辺さんの実家を使用しての撮影シーン。 役者さんに演出を行う。

FacetoFace89top5
主演の平野貴大さんと、 岳南電車・本吉原駅にて。

FacetoFace89top6
幼い頃の渡辺さん。「渡辺洋服店」の建物が実家で、今回の映画では
ロケ地・食堂・宿泊所として大活躍した。

ページの先頭へ戻る

有限会社 星野新聞堂

〒417-0049 富士市緑町1-28
TEL 0545-52-0376(代) FAX 0545-52-9757
フリーダイヤル 0120-110376