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トップページ > 地域情報紙 > トップインタビュー(vol.88)
今月のトップインタビュー


 里親という生き方を選んで


            ふじ虹の会 会長
  坂間 多加志



 児童養護施設で暮らす子ども達を描いた日本テレビ系のドラマ『明日、ママがいない』。番組開始直後、その人物設定や台詞の内容が視聴者に誤解と偏見を与え、実際に施設で暮らす子ども達の人権を侵害しかねないとの批判が各方面から上がり、一時は提供スポンサー全社のCM放送が自粛される事態にまで発展したことは記憶に新しい。表現の自由と人権への配慮。メディアは常にそのバランス感覚を保持しなければならないのは言うまでもないが、賛否両論ある中、皆さんはこの問題をどのように感じただろうか。
 今回紹介する坂間多加志さんは児童養護施設での勤務経験を経て、現在は元同僚であり妻の美夏さんと共に、社会的養護を必要とする子どもを自宅で養育する里親として活動している。また富士・富士宮の里親同士で組織する任意団体『ふじ虹の会』の会長も務める。4年間遊んで暮らせるからという理由で福祉大学に進学し、有言実行。学生時代は講義をサボってあらゆる遊びに興じたという坂間さんだが、その後自ら進むべき道を見つけ、わずか10年で地域の里親を代表するリーダーにまで至ったその根底には、既成概念に囚われない柔軟な発想と、物事の本質を見つめて正しいものは正しいと言える芯の強さがあった。いかにも近所にいそうな気のいいお兄ちゃんだが、見紛うなかれ。この人間力、並の若者ではない。




 親代わりじゃない だけど愛しい



 児童福祉に関心を持ったきっかけは?


 「大学卒業後の就職先が児童養護施設だったことが直接のきっかけです。ただ、元々この分野を志望していたわけでも、僕自身がそういった環境で生まれ育ったわけでもありません。中学・高校時代にジュニアリーダーとしてボランティア活動をやっていて、自分では世代を超えて楽しく交流できる遊び場のような感覚だったんですが、高校の先生に勧められて福祉大学に入りました。ところが当時は福祉への思いが強過ぎる周りの学生との間に温度差を感じて、うまく馴染めず、結局勉強もせずに遊んでばかりいました。不真面目そのものです(笑)。卒業後はアルバイトでもやろうかなと考えていたところ、やはり大学の紹介でなんとなく就職したのが児童養護施設でした。振り返ってみれば、人生の節目ごとにその先の指標を示してくれる大人や先輩との出会いがあって、なんとか真っ当な道を歩いてきましたが、いざ就職した施設ではすぐに厳しい現実の壁にぶち当たりました。児童指導員として6人の子どもを担当して、生活の記録や学校とのやりとりをする中で、プロとしてはあまりに無知で丸裸同然の自分を思い知らされました。自分が恥をかくだけならまだしも、相手は様々な家庭環境を抱え、場合によっては心に深い傷を負った子ども達です。何も知らない自分が彼らの生活の邪魔をするわけにはいかないと、職場から何十キロも離れた大学の図書館に1年くらい通って、遅まきながら猛勉強しました。学生時代には図書館なんてほとんど行ったことがなかったんですけどね(笑)。」


 やればできる子だったんですね (笑)


 「ただ皮肉なことに、自分が無知だったからこそ感じることができた施設内の問題点や違和感もありました。例えば、職員のことを『先生』と呼ばせている一方で、『私達が親代わりなんだよ』というスタンスで子ども達と接していること。子ども達には一緒に暮らせなくてもお父さんお母さんがいるんだから、自分は親にも兄弟にもなれないし、なる必要もないと僕は思いました。また、子どもが施設外で何か悪いことをすると1週間とか2週間外出禁止にするんですが、これで本当に根本的な解決になると思いますか?集団生活を通じて社会常識を教えるとしながらも、実際には一般社会ではあり得ないような規則や慣習がたくさんあって、それに疑問を感じる僕の感覚が正しいのかどうかを確かめたくて、もっと深く学びたいという気持ちが増していきました。ことあるごとに僕が先輩達を質問攻めにするので、最初のうちはかなり変人扱いされましたが、当時の施設長が『子どもを見守ることと管理することは違うよね』と僕の意見を受け止めてくれたことは嬉しかったですね。また職員全体の意識も少しずつ変わってきて、子ども達のためになることはどんどん取り入れて改善していこうという雰囲気になっていきました。」


 その後里親活動を始めた経緯は?


 「同僚として同じ施設で働いていた僕達夫婦ですが、現場の状況を知る者として、退職して地元の富士市に転居してからも、同じような事情を抱えた子ども達を何らかの形で支援できないかという思いを抱いていました。夫婦の間に子どもができず、少し塞ぎ込んだ気持ちでいたある日、妻が市の広報で里親募集の告知を見つけて、里親になりたいと言ってきたんです。僕はまず最初に『自分達の子ども代わりじゃないよ。もしそういう気持ちならやめよう』と伝えました。施設で働いていた頃のように、困っている子どもやその家族のために自分達がサポートする、そういう捉え方ならとお互い確認した上で、現在も一緒に生活している当時6歳と5歳だった姉弟の里親になりました。これまでに長期短期含めて計8人を迎え入れ、生活を共にしてきましたが、彼らはそれぞれに虐待経験や知的障害などの事情を抱えた子ども達です。」


 里親として一番気にかけていることは?


 「その子にとって最善の利益はどこにあるのかということを常に意識しています。里親といっても、一生一緒に暮らすわけではありません。児童相談所や本人、親戚、里親の僕達も含めて話し合った上で、別の施設や家庭に移ることもあります。その決定を子どもが嫌がって泣き叫ぶこともありますし、もちろん僕達にも情があります。一緒に暮らせば可愛いし、寝顔を見れば愛おしいのは当然ですが、情が湧くからこそ、この子にはいい人生を送ってほしいと思うんです。施設で働いている頃からずっと心に留めているのは『親代わりじゃない』ということです。子ども達にとって僕の存在は、ちょっと触れ合って通り過ぎていくだけの人間かもしれませんが、逆に僕が彼らの人生に変な影響を与えてしまうかもしれません。だからこそ、子ども達の足を引っ張らないようにちゃんと勉強して、その場の情だけに流されない広い視野を持たないといけないと思うんです。もちろん里親・里子という制度上のつながりが切れても、人間関係は続けられます。手紙のやりとりをしてもいいし、何か困った時には相談に来てもいいと思います。僕達がいつまでも保護者として前に出ていくのではなく、必要な時に必要な関わりを持てる大人として見守っていければいいと思います。」


 その考え方は実子の子育てにも当てはまる部分がありますね。


 「血のつながりだけで本当の意味での親子関係が完成するわけではないですからね。そもそも自分自身が子どもだった頃を思い返してみると、子どもだから何も分からない、考えていないということはなくて、子どもなりにいろんなことを感じて、悩んで、大人の様子も伺いながら、やりくりして生きてきたはずなんです。そう考えると、大人がなんでも先回りして答えを与えて、『これが私の愛情、受け取って!』みたいな関わり方をするのは、むしろ子どもの人格に対して失礼だと思うんです。そこは実子でも里子でも同じで、いずれ彼らが自立して、いろんな社会経験をする中で、『ああ、そういえば坂間が昔あんなこと言ってたな』と思い出してくれるくらいがちょうどいいのかなと。なんでもできるようにと子どもの頃からギュウギュウに詰め込むのではなく、彼らが自分で考えて行動するという経験と、そのためのヒントを与えることが大切だと思います。」


 『ふじ虹の会』について教えてください。


 「富士児童相談所管内の里親が集まって3年前に発足した組織で、同じような里親会が全国各地にあります。当会には30代から70代の会員約25家庭が登録していて、会員同士の交流や、施設と会員の情報交換を目的とした懇談会、一般市民向けの広報・啓発活動などを行っています。特に意識しているのは、慣例に囚われず、当事者意識を持ちながら主体的に情報発信していこうということです。その集大成として、毎年秋には『フォスターセッション』と題したイベントを開催しています。フォスターというのは『 実子でない子を養育する』という意味ですが、児童虐待の相談件数が増える一方で、子育て世代や働き盛りの人々の社会環境が悪化しているという状況を踏まえて、地域全体で共に暮らしながら、子どもを育てていこうというメッセージが込められています。」


 児童養護施設や養子縁組について、最近はテレビドラマでも話題になりましたが。


 「まず第一に、児童虐待や育児放棄の話題をドラマやニュースを通じて見ると、どこか遠い場所の出来事のように感じるかもしれませんが、これは富士・富士宮でも現実に起きていることなんです。また富士市内には児童養護施設が3ヵ所、乳児院が1ヵ所ありますが、市内のどこにどんな施設があるのか、多くの市民は知らないんじゃないかと思います。その点では批判のあったテレビドラマにも僕は一定の評価をしています。全国里親会としては番組内容の再検討を求める抗議文を出していますが、社会に悪影響を与えるかもしれないから消してしまえというのは検閲のようなもので、個人的にはすべきではないと思います。そもそもフィクションという前提のついたストーリーですし、むしろこれを機に多くの人に関心を持ってもらって、議論を深めてもらえばいいと思います。もしそのことで、施設で暮らす子どもや親のいない子どもに影響が及ぶとすれば、その時こそ側にいる大人の出番で、子どもと一緒にこの問題をひも解きながら丁寧に説明すればいいことです。いじめがあるなら、それはいじめる側の問題であって、テレビ局ではなくその人間に向かって社会全体で啓発していくべきです。何も悪いことをしていない人間がコソコソしたり自分の人生を隠したりする必要は全くありません。全てをオープンにした上で、誰もが普通に暮らしていける社会の実現が、僕がこの活動を続ける上での一番の願いでもあります。」


 読者へのメッセージはありますか?


 「保護者のいない子ども、虐待や貧困、親の病気など、様々な理由で家庭環境上保護を必要としている子どもが増えていて、またそれは我々の身近にある問題だということを、まずは知ってほしいです。そしてそれを支援するひとつの形として、里親という制度があることもぜひ知ってほしいと思います。この活動への参加や応援は誰でも気軽にできることで、保育ママや絵本の読み聞かせボランティアと何ら変わりありません。実子の子育て中でも、現役を引退した世代でも、独身だっていいんです。『里親なんてよくできるね』とか『自分にはできないな』と言われることもありますが、『じゃあできない理由って何?』と尋ねても、案外明確な答えはないんです。子どもが生活する空間は少人数で家庭的な方が望ましいのは当然のことです。ところが『施設から里親へ』という国際的な流れの中で、日本は他の先進国に比べてこの取り組みが遅れていて、国連・子どもの権利委員会からも改善勧告を受けているという状況です。最近は週末や長期休みの間だけ子どもを預かる『ショート・ルフラン』という制度も広がりつつあるので、少しでも関心のある方は、一度気軽に問い合わせてもらえると嬉しいですね。」




 坂間 多加志(さかま・たかし)


 ふじ虹の会 会長

 社会福祉法人 誠信会 勤務

 

 1979(昭和54)年9月1日生まれ(34歳)

 富士市今宮出身・在住

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 神戸小、吉原北中、富士東高校卒業後、日本福祉大学社会福祉学部に進学。2002年の卒業後、児童相談員として愛知県豊田市の児童養護施設・梅ヶ丘学園に3年間勤務。2005年、職場の同僚で保育士だった妻の美夏(みか)さんと結婚。同年富士市に帰郷。2008年より社会福祉法人誠信会に勤務し、現在は発達障害者支援コーディネーターを務める。同じく2008年より里親制度に基づく養育里親として、これまでに8人の児童を里子として自宅で養育。現在は姉弟である12歳と11歳の児童と生活を共にする。2011年に同エリアの里親会である任意団体『ふじ虹の会』を立ち上げ、会長に就任。児童相談所や児童養護施設との情報交換や職員との交流、一般市民向けの広報・啓発活動などに尽力している。

 ● 坂間さんFacebook https://www.facebook.com/team.inariyama
 ● ふじ虹の会 http://www.geocities.jp/fujinijinokai/
    メール : fujinijinokai@yahoo.co.jp



【 里親制度とは 】
 経済的困窮、虐待、親の行方不明など、様々な事情により家庭で暮らすことが困難になった子どもを家庭に迎え入れて養育する、児童福祉法に基づく制度。親族ではない『養育里親』は養子縁組を希望する場合を除き、子どもが家庭に戻れるまで、または自立できるか18歳になるまで養育する。最近では週末や長期休みの間だけ子ども預かる『ショート・ルフラン』制度も普及しつつある。同時に養育できる子どもは養育里親の場合4人までで、実子がいても可能(合計6人まで)。また子どもの年齢や状況に応じて、生活費や教育費など一定額の経費が公費で支給され、養育里親には里親手当も支給される。里親になるにあたって特別な資格などは必要ないが、所定の研修・調査・審議を経て県知事によって認定・登録される。



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坂間さんの親戚宅で行った年末の餅つき。子ども達と一緒に。

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ふじ虹の会の夏のイベントでバーべキュー。中央は妻の美夏さん。

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ふじ虹の会で児童養護施設を誘って行ったイベント『ドリームマップワークショップ』。

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昨年10月に開催した『フォスターセッション』の様子。左端が坂間さん。

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