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トップページ > 地域情報紙 > トップインタビュー(vol.87)
今月のトップインタビュー

  大局観で生きる幸せ
  ~中山間地の農業を元気に~     

 ビオファームまつき 代表
  松木 一浩
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 今回紹介する松木一浩さんは、「中山間地における有機農業(※注)の新しいビジネスモデルを確立する」という理念のもと、富士宮市(旧・芝川町)を拠点に農業の6次産業化を軸とした積極的な事業展開を行う、農業ビジネス界のトップランナーだ。全国的にも注目を集める松木さんの活躍はすでに数多くのメディアで取り上げられており、ご自身の著書も豊富なため、具体的なビジネス論などはそちらに譲るが、これまでの経緯を改めて伺うと、そのダイナミックな半生に驚きと羨望を感じる。華やかなセレブが集うパリや東京でのレストランサービスの時代、30代にして都会を離れた仙人になりたいと願った農業研修時代、そして芝川の里に根を下ろし、事業と人材を着実に育てている現在の姿。一貫しているのは、どの時代も「本気」で行動しているということだ。
 現時点での松木さんにとっての豊かさとは「毎日仕事が楽しくて、お金と時間も程々にある状態」とのこと。「大局観で生きてきた」と振り返る通り、生活環境や周囲からの評価が変化しても、あくまでも信念と現実を見失わないこのバランス感覚こそが、経営者としての才能であり、人としての魅力でもあると感じた。




ドロップアウトから開けた道



 忙しい毎日だと思いますが、標準的な一日の生活サイクルは?

 「現在は農場のスタッフが6人いて、野菜が質・量ともに安定的に供給できるようになってきたので、最近は主にレストラン『ビオス』の運営に携わっています。朝のミーティングからランチの営業、その後はディナーの準備・営業・片付けまでやるので、大体22時くらいまでレストランにいます。講演などはなるべくレストランの定休日に入れてもらうようにしています。定休日に出張に行くとどうしても丸一日の休みというのはなくなりますが、用事の合間に時間を見つけて気分転換をしています。講演の前に映画を観たり、地方の民宿にフラッと入って泊まったり。正直なところ、仕事と切り離した純粋な趣味というのはほとんどなくて、出張先で美味しいお店を食べ歩くことくらいですね。」


 一流レストランの管理職から農業に転身したきっかけは?

 「当時の感覚を一言で表現するなら、ドロップアウトです。農業の方が儲けるからとか、昔からやりたかったということではありません。当時37歳でしたが、それまで長い間レストランサービスの世界に身を置いてきて、最終的に恵比寿ガーデンプレイスのランドマークでもある、高級フレンチレストラン『タイユヴァン・ロブション』の第一給仕長という立場で活躍できたことで、もう充分やり切った、この職場で終わるなら本望だという満足感を抱いたということもありますが、毎日の煩雑な生活とストレスにうんざりしたというのが一番の理由です。すでにバブルがはじけた後でしたが、それでも1本数十万円のワインを提供してチップも飛び交うような華やかな職場で働く一方、ヘトヘトに疲れて、終電に揺られて帰ったアパートでカップラーメンを食べる。なんか変だよなと思ったんです。そんな虚しさから逃れて、田舎で野菜でも作ってのんびり暮らしたほうが幸せだと、思い切って辞めました。同僚たちはあきれ顔でしたが、お金や地位には執着心がなかったんです。当時はまだ子どももおらず、妻と二人でしたので、比較的身軽に行動できたということもありました。もちろんその頃はレストランを経営している今の自分の姿など想像もしていませんでしたね。」


 有機農業に着目した理由は?

 「当初はビジネスというよりも、単純に『自分が食べるものを自分で作りたい、どうせなら身体に良くて、自然環境にも負荷をかけないものを作って食べたい』という発想でした。栃木県の有機農業法人で1年半の研修を受けて、その後の生活拠点として芝川町に移住しました。芝川町を選んだ理由は、妻の実家のある静岡市に近かったこともありますが、寒さが苦手で寒冷地を避けたかったこと、日照時間の長さが四季を通じた少量多品目栽培に適していること、首都圏のレストランに野菜を買ってもらう上での利便性などです。実際に訪れてみて、さらに気に入りました。まず富士山がドーンと構えていて、のどかな里山にきれいな水が流れていて、まさに自給自足、晴耕雨読の仙人になるにはうってつけの場所だと思ったんです。しかも私の誕生日は2月 日で、富士山の日なんですよ。まさに富士山に導かれてこの地に来たとしか言いようがありません(笑)。」


 ビジネスとしての農業を展開することになった経緯は?

 「作った野菜が少しずつ売れ始めたことで、仙人を目指していたはずの自分の中に眠っていた商売人根性にスイッチが入ったのかもしれません(笑)。宅配便で個人に販売する野菜セットと合わせて、前職の経験を生かして東京のレストランに売り込みに行ったことも功を奏して、家族がそれなりに暮らしていくには充分な収入になっていきました。自分が汗をかいて働く労力を除けば、本来それほどコストのかからないのが有機農業で、儲けるというほどではないですが、晩酌つきで食べていくことはできるんです。ずっとその状態を維持していくという選択肢もありましたが、意外なことに、むしろ周りの農家さんの方が『結局農業じゃ食べていけないでしょ?』と否定的な見方をするんです。そこで強く実感したのが、中山間地で農業を生業として継続していけるビジネスモデルがないという現実でした。だから理解されないし、後に続く人も出てこない。これは日本の農業界全体の大きな問題です。結論からいうと、様々な外的要因も含めて考えれば、日本の農業が生き残る道はふたつしかありません。ひとつは広大で平坦な農地を集約して、輸入品に負けないように最低のコストで最大の収穫量を目指す大規模化、もうひとつは大規模化できない中山間地で、農家自身が工夫とアイディアを凝らした付加価値をつけて商品を買ってもらえるようにする、いわゆる6次産業化です。そのことに気づいた時に、また別のスイッチが入りました。補助金頼りではなく、経済的にもきちんと自立した中山間地での農業という新しいモデルを自分が作り上げることで、今後就農を希望する若い人が増えて、全国で過疎化が進む中山間地を元気にできるんじゃないかと思ったんです。カッコよく言えば、商売ではなく『志』のスイッチです。まだまだ道半ばで試行錯誤と失敗の連続ですが、この想いはずっと変わることはありません。」


 その具体的な手法として、総菜店やレストランの経営に至るわけですね。

 「6次産業化の手法は様々だと思いますが、私の場合は前職の経験や人脈も踏まえて、総菜店『ビオデリ』やレストラン『ビオス』の出店という形になりました。その後静岡市にもレストランを出店し、また今月には『ビオデリ』の移転という形で、富士市では初めてとなる出店も決まっています。採れたての美味しい野菜を多くの人に食べてほしいという願いを込めつつ、『ビオス』については不便かもしれませんが、あえて畑の中にいるような感覚で食べてもらうことを付加価値として提供しています。かつてパリで働いていた頃、給料の大半をレストラン巡りに使っていたんですが、フランスにはオーベルージュといって、宿泊施設を備えたレストランがたくさんあるんです。たいてい田舎の小さな町にあるんですが、パリや外国の大都市から多くのお客さんが、その店で食事をするためだけに訪れます。そんなセンスのいいオーベルージュを目指して、シンプルであること、旬であること、土地に由来することをコンセプトとして、決して豪華ではないですが、上質な食材とサービスを提供したいと思っています。」


 食の生産者として、消費者へ向けてのメッセージはありますか?

 「まず第一に、私は有機農業をやっていますが、慣行農業(※注)を否定して、消費者に向かって『こういう野菜を食べないとダメだ!』などと言うつもりは全くありません。法律に触れているなら話は別ですが、味・産地・価格と同様に、農法も含めた多様性が何より大切だと思いますし、そもそも全ての農家が有機農業をやっていたら、間違いなく供給量が不足して大変なことになります。もちろん口にするものはより安全で美味しいことが望ましいですが、有機農業が善でそうでないものは悪というようなイメージは持ってほしくないですね。その前提で言わせていただくなら、野菜本来の美味しさや美味しい時期、またどうやって作られているのかを勉強してほしいとは思います。そうすることで、例えば冬にトマトを作るにはそれだけ大量の重油を燃やして温度を上げているということに気がつきますし、便利な生活の背景には環境への負荷があることを知るきっかけにもなると思います。また現在、日本の食糧自給率はわずか4割で、残りの6割は輸入に頼っています。しかもそのうち3割は食べ残しや賞味期限切れで廃棄されているという現実があります。その一方で、世界では飢えに苦しんでいる人々がいます。これは明らかにおかしいですよね。昔のおばあちゃんに言わせれば『そんなことしてたらバチが当たるぞ!』という話です。とはいえ、基本的に便利な世の中になっていくという流れは変えられないと思いますし、あまり気負い過ぎても息が詰まってしまいます。私自身もコンビニが好きですし、回転寿司やカップラーメンも食べますから(笑)。便利さを享受しながらも、身の丈に合った生活や『バチが当たる』という感覚は持ち続けていくことが大事ですね。」


 今後の展開と最終的な目標は?

 「中山間地に農業の新しいビジネスモデルを確立するということを目標としてやってきましたが、登山に例えるなら、まだ6合目くらいでしょうか。目指すべき頂上が見える時もあれば霞んで全く見えなくなる時もあります。まずはこの土地で作ったものがきちんとした流通ルートに乗って採算が合って、それが永続的に維持できるという成功事例を作る。そしてそのモデルを全国各地の似た状況の地域にコピーして増やしていくというのが最終的なイメージです。現在国内では約40万ヘクタールの耕作放棄地があるといわれていて、その面積は埼玉県に匹敵します。そのうち4割は中山間地ですから、そこを元気にしていかないことには根本的な問題解決にはなりません。国の農業政策や法律上の制約など、別次元の問題もありますが、日本の土壌はヨーロッパなどと比べても肥沃で、本来コンパクトな農業には向いているはずなんです。私も50歳を過ぎたところで、今後どれだけ現場の最前線に立っていられるのかは分かりませんが、目標を実現していくために会社組織として一番いい形を組みながら、野菜を買って食べてくれる人はもちろん、そこで働く人、その地域で暮らす人々みんなが幸せを感じられる社会のために、私なりの形で貢献していきたいですね。」

※ 注
【有機農業】
化学的に合成された肥料や農薬、遺伝子組換え技術を利用せず、環境への負荷をできる限り低減した農法による農業

【慣行農業】
化学肥料や農薬を一定量使用する一般的な農法による農業

【6次産業化】
農林水産業者が農林水産物の生産(第1次産業)だけにとどまらず、それを原材料とした加工食品の製造・販売(第2次産業)や観光農園やレストランなど地域資源を生かしたサービス(第3次産業)にまで踏み込むこと










 松木 一浩(まつき・かずひろ)


 株式会社 ビオファームまつき 代表


 1962(昭和37)年2月23日生まれ(51歳)

 長崎県長崎市出身・富士宮市在住

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 長崎県立長崎工業高校、国際観光専門学校名古屋校を卒業後、ホテル・レストランサービスの世界へ入り、主にフランス料理サービスを担当。1990年に渡仏し、パリの『ニッコー・ド・パリ』に勤務。帰国後、銀座のフランス料理店支配人を経て、1994年から恵比寿の『タイユヴァン・ロブション』(2004年に閉店し、現在は『ジョエル・ロブション』となる)の第一給仕長を務める。1999年、有機農業の道に進むことを決意。栃木県での約1年半の農業研修後、静岡県芝川町(現・富士宮市)に移住。現在4ヘクタールの畑で年間約80品目もの野菜を有機栽培している。2007年、富士宮市に野菜惣菜店『ビオデリ』をオープンし(移転に伴い2013年12月に閉店)、自らの農場『ビオファームまつき』を株式会社化。2009年、『ビオフィ-ルド1,000プロジェクト』として1,000坪の畑の中にレストラン『ビオス』をオープン。2011年、静岡市葵区にレストラン『ル・コントワール・ド・ビオス』をオープン。また今年2月24日には富士市瓜島町『quatre epice(キャトルエピス)富士店』内に『ビオデリ』を移転オープン予定。中山間地における新たな有機農業のビジネスモデルを構築する牽引役として注目され、2013年より富士市産業支援センター『f-Biz(エフビズ)』でビジネスアドバイザーを務めるほか、講演で全国各地を飛び回る多忙な毎日を送る。著書に『ビオファームまつきの野菜レシピ図鑑』(学研)、『ビオスのテーブルから』(東京地図出版)、『ビオファームまつきの野菜塾』(角川SSC)、『農はショーバイ!』(アールズ出版)、『ビオファームまつきの旬のおいしい野菜レシピ』(静岡新聞社)など多数。

 
 
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① 芝川町の畑から富士山を望む
② ビオファームまつきの有機野菜セット
③ 農場スタッフと松木さん (後列中央)
④ レストラン・ビオスの内観
⑤ タイユヴァン・ロブション時代の松木さん
 (中央・1995年撮影)


野菜惣菜店【ビオデリ】『quatre epice(キャトル・エピス)富士店』内に
2014年2月24日(月)10:30 移転オープン!

富士市瓜島町152-2
TEL 0545-51-7080
営業時間 10:30~19:30
水曜定休
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【レストラン・ビオス】(RESTAURANT Bio-s)

富士宮市大鹿窪939-1
TEL 0544-67-0095
営業時間
 11:30~14:30(L.O.)
 17:30~20:00(L.O.)
火・水曜定休
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